精神障害がある人に筋トレは効果がある?トレーニングと心の健康をやさしく解説

執筆:あべきん|ボディメイクインストラクター・メンタル心理カウンセラー資格保有

「心の調子に波があっても、自分に甘くはしたくない」

そんな気持ちで、トレーニングを続けて2年近くになります。

今、こうして元気に身体を動かせている自分がいる。その毎日をトレーニングが支えてくれていることは、私の中では確かな実感です。

ただし、今の状態を運動だけで説明することはできません。治療や休養、周囲の支えなども含めて、日々の調子はつくられています。

それでも、「自分のためにできることがある」と思える時間を持てた意味は大きかったと感じます。

今回は、精神障害がある人にとって、筋トレやランニングなどのトレーニングにどのような効果が期待できるのかを調べました。研究でわかっていることと、私自身の実感を分けながら、できるだけ身近な言葉でお伝えします。

1.精神障害がある人にも、トレーニングの効果はある?

結論からいうと、筋トレや有酸素運動は、落ち込みや不安を和らげ、心身の健康を支える方法の一つになり得ます。

2026年に公表された大規模な研究では、運動と抑うつ・不安に関する63件のレビューをまとめ、全体として症状が軽くなる効果が示されました。ただし、診断を受けた人も、診断に至らない症状がある人も含まれており、精神障害のある人だけを調べた結果ではありません。参考文献1

ここで押さえたいのは、「精神障害」という言葉にはさまざまな病気や生活上の困難が含まれることです。うつ病について得られた研究結果を、そのまますべての精神疾患に当てはめることはできません。

この記事では、主にうつ症状、不安症状、統合失調症に関する研究を紹介します。筋トレだけを調べた研究と、ウォーキングや自転車なども含む運動全般の研究も、区別して見ていきましょう。

2.筋トレは、落ち込みや不安にどう役立つ?

落ち込みを和らげる効果が研究されている

2018年の研究では、33件の比較試験、計1,877人のデータをまとめたところ、筋力トレーニングによって抑うつ症状が軽くなる傾向が確認されました。参考文献2

抑うつ症状とは、気分の落ち込みや、物事を楽しみにくくなる状態などのことです。

注目したいのは、この研究では、筋力が大きく伸びたかどうかによって、気分への効果が明確に左右されなかったことです。つまり、重い重量を持てるようになることだけを、心への効果を測る基準にする必要はありません。参考文献2

また、2024年には、うつ病の診断基準に相当する症状がある人を対象とした218件の研究がまとめられました。筋トレのほか、ウォーキングやジョギング、ヨガなどでも症状の改善が示されています。一方、研究の偏りなどから、結果の確かさには限界があると評価されています。参考文献3

「筋トレだけが正解」と考えず、自分が取り組みやすい運動を選べることも、この結果から読み取れる点です。

不安への効果も期待できる

筋トレと不安の関係を調べた2017年の研究では、16件の研究、計922人のデータから、不安症状を軽くする効果が示されました。ただし、参加者には健康な人や身体の病気がある人も含まれています。参考文献4

不安症やストレスに関連する病気のある人を対象にした別の研究でも、運動による不安の改善が報告されています。ただし、こちらは6件の試験、計262人と規模が小さく、効果の見込みを示す結果として受け止めるのが適切です。参考文献5

大切なのは、「運動すると必ず前向きになれる」と期待を大きくしすぎないこと。少し気持ちが落ち着く、日中の過ごし方が変わるといった変化も、自分に合うかを考える手がかりになります。

3.統合失調症では、どのような運動効果が調べられている?

統合失調症のある人を対象とした研究でも、運動の効果が調べられています。

2016年の研究では、運動によって、症状全体や生活の満足度、日常生活での働きなどが改善する可能性が示されました。ここで扱われたのは、筋トレだけでなく、有酸素運動やヨガなどを含む運動です。参考文献6

また、有酸素運動を中心に調べた研究では、注意を向け続ける力や、情報を一時的に覚えながら作業する力など、一部の「考える働き」に改善がみられました。すべての記憶力や判断力が一様によくなるという結果ではありません。参考文献7

こうした結果は、運動を治療に加える意義を示しています。ただし、「筋トレをすれば幻聴が消える」「鍛えれば薬がいらなくなる」とまでは言えません。

2024年の欧州精神医学会の資料でも、運動は通常の治療に加える方法として位置づけられています。一方、双極症など、まだ研究が十分でない領域も残っています。病気の種類や状態に合わせて考える必要があります。参考文献9

4.睡眠や身体の健康を支える意味もある

睡眠の改善につながる可能性

運動の効果は、気分だけに限られません。

成人を対象とした22件の比較試験をまとめた研究では、継続的な運動によって、本人が感じる睡眠の質や不眠の程度が改善しました。ただし、機器で測った睡眠の変化は限定的で、精神疾患のある人に特化した研究でもありません。参考文献8

「疲れ果てるまで運動すれば眠れる」と考える必要はありません。寝つきだけでなく、翌日の眠気や疲れも含めて、自分に合う時間帯と量を探していきたいところです。

体重や体力の管理にも目を向ける

精神科で使われる薬の中には、体重や代謝に影響するものがあります。また、生活の中で身体を動かす機会が減れば、身体の健康についても支えが必要になります。

2024年の資料では、運動に食生活の調整や習慣づくりの支援を組み合わせることが、重い精神疾患のある人の体重や心血管の健康指標の改善に役立つとされています。参考文献9

心の調子と一緒に、身体の健康も守っていく。そのための習慣として、トレーニングを考えることができます。

5.2年近く続けて感じた「自分にもできる」という実感

ここからは、研究の結果ではなく、私自身の経験です。

筋トレとランニングを続ける中で、身体つきが変わり、10kmを走ることも生活の一部になりました。もちろん、その距離を誰かの目標にしてほしいわけではありません。

私にとって大きかったのは、「続けたことが、自分の変化につながった」と感じられたことです。

心の状態には、自分の意志だけでは動かしにくい部分があります。その中でも、身体を動かす時間をつくり、できることを少しずつ増やせた経験は、自分を見る目を変えるきっかけになりました。

もう一つ、運動を続ける支えになっているのが、好きなスポーツの映像や音楽です。見たり聴いたりしていると、「自分も身体を動かしたい」と気持ちが向くことがあります。

これは、音楽を使えば病気がよくなるという話ではありません。私には、行動を始めやすくなるきっかけがある、ということです。

散歩が好きな人、家で黙々と身体を動かしたい人、誰かと一緒なら取り組みやすい人。それぞれに、動き出しやすい入口があってよいと思います。

6.精神障害がある人は、どのくらいトレーニングすればいい?

精神障害がある人全員に共通する「この量なら効く」というメニューはありません。

厚生労働省の成人向けの目安では、筋力トレーニングを週2~3日行うことや、個人差を踏まえて運動の強さ・量を調整し、可能なことから取り組むことが勧められています。参考文献11

ただし、これは一般的な健康づくりの目安です。精神疾患の治療に必要な最低量ではなく、最初から達成する義務もありません。

運動を始めるなら、例えば次のような小さな内容から考えられます。

運動を始めるなら、例えば次のような小さな内容から考えられます。

① 散歩
最初は5~10分程度を目安に、無理なく帰ってこられる範囲で歩きます。

② 椅子からの立ち座り
最初は数回から。安定した椅子を使い、痛みのない範囲で行います。

③ 壁に手をつく腕立て
最初は数回から。息を止めず、余裕を残して行います。

これらは、運動習慣をつくるための一例です。この量で症状への効果が証明されているという意味ではありません。けがや持病がある場合は、できる動きを主治医などと確認してください。

7.「自分に甘くしたくない」気持ちと、休む判断を両立する

「できることまで、最初から諦めたくない」

私は今も、その気持ちを大切にしています。ただ、それを「つらくても必ず運動しなければならない」という決まりにしてしまうと、続けること自体が苦しくなります。

精神疾患のある人の運動について調べた研究では、気分の落ち込み、ストレス、疲労、支援の不足などが、取り組みにくさと関係していました。運動できない理由を、意志の弱さだけで説明することはできません。参考文献10

そのため、予定を一つに固定せず、体調に合わせて選べるようにしておくとよいと思います。

  • 調子がよい日は、予定していた運動をする。
  • 疲れている日は、時間を短くしたり、散歩に変えたりする。
  • 不調が強い日は、休養や相談を優先する。

眠れない日が続く、普段と違う気分の高ぶりがある、精神症状が強くなっている場合は、運動量を増やして対処しようとせず、主治医に相談してください。運動の手応えを理由に、薬を自己判断で減らすことも避けましょう。

また、運動中に胸の痛み、めまい、強い動悸、いつもと違う強い疲れなどがあれば中止してください。厚生労働省も、持病や内服薬の確認と、運動前・運動中・運動後の体調確認を重視しています。参考文献12

私が大切にしたいのは、その日の体調に合う行動を、自分で選べることです。続けるために量を変えたり、人を頼ったりすることも、その選択に含まれます。

8.トレーニングを、自分の可能性を育てる時間に

筋トレや運動には、落ち込みや不安を和らげる効果が期待できます。統合失調症についても、症状や日常生活での働きを支える可能性が研究されています。ただし、効果の程度には個人差があり、治療や休養と組み合わせて考えることが大切です。参考文献2⁠、参考文献5⁠、参考文献9

2年近く続けてきた今、トレーニングは、私にとって自分の可能性を確かめられる時間になっています。

いつか、似たような立ち止まり方をしている人と、経験を持ち寄って話せるようになれたら。そんな思いも、少しずつ育っています。

まずは、今日の自分に合う一歩を選ぶところから。身体を動かす日も、回復のために休む日も、自分のこれからにつながる時間にしていきたいと思います。

※本記事は、研究・公的資料と筆者の体験を紹介するものです。個別の診断、治療、運動処方を行うものではありません。

参考文献

  1. 参考文献1⁠:Munro NR, et al.(2026). Effect of exercise on depression and anxiety symptoms: systematic umbrella review with meta-meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. DOI: 10.1136/bjsports-2025-110301.
    運動と抑うつ・不安に関する研究の全体像。
  2. 参考文献2⁠:Gordon BR, et al.(2018). Association of Efficacy of Resistance Exercise Training With Depressive Symptoms: Meta-analysis and Meta-regression Analysis of Randomized Clinical Trials. JAMA Psychiatry, 75(6), 566–576. DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2018.0572.
    筋トレと抑うつ症状。
  3. 参考文献3⁠:Noetel M, et al.(2024). Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ, 384, e075847. DOI: 10.1136/bmj-2023-075847.
    うつ症状に対する運動の種類と効果。
  4. 参考文献4⁠:Gordon BR, et al.(2017). The Effects of Resistance Exercise Training on Anxiety: A Meta-Analysis and Meta-Regression Analysis of Randomized Controlled Trials. Sports Medicine, 47(12), 2521–2532. DOI: 10.1007/s40279-017-0769-0.
    筋トレと不安症状。
  5. 参考文献5⁠:Stubbs B, et al.(2017). An examination of the anxiolytic effects of exercise for people with anxiety and stress-related disorders: A meta-analysis. Psychiatry Research, 249, 102–108. DOI: 10.1016/j.psychres.2016.12.020.
    不安・ストレス関連疾患のある人への運動効果。
  6. 参考文献6⁠:Dauwan M, et al.(2016). Exercise Improves Clinical Symptoms, Quality of Life, Global Functioning, and Depression in Schizophrenia: A Systematic Review and Meta-analysis. Schizophrenia Bulletin, 42(3), 588–599. DOI: 10.1093/schbul/sbv164.
    統合失調症の症状や生活への効果。
  7. 参考文献7⁠:Firth J, et al.(2017). Aerobic Exercise Improves Cognitive Functioning in People With Schizophrenia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Schizophrenia Bulletin, 43(3), 546–556. DOI: 10.1093/schbul/sbw115.
    有酸素運動と注意・作業記憶などの働き。
  8. 参考文献8⁠:Xie Y, et al.(2021). Effects of Exercise on Sleep Quality and Insomnia in Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Frontiers in Psychiatry, 12, 664499. DOI: 10.3389/fpsyt.2021.664499.
    運動と睡眠の質・不眠。
  9. 参考文献9⁠:Maurus I, et al.(2024). EPA guidance on lifestyle interventions for adults with severe mental illness: A meta-review of the evidence. European Psychiatry, 67(1), e80. DOI: 10.1192/j.eurpsy.2024.1766.
    精神疾患の治療における運動・生活習慣支援の位置づけ。
  10. 参考文献10⁠:Firth J, et al.(2016). Motivating factors and barriers towards exercise in severe mental illness: a systematic review and meta-analysis. Psychological Medicine, 46(14), 2869–2881. DOI: 10.1017/S0033291716001732.
    運動への意欲と、続けにくさの背景。
  11. 参考文献11⁠:厚生労働省.「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:成人版.
    一般成人の運動量と、個人差に応じた取り組み方。
  12. 参考文献12⁠:厚生労働省.「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:身体活動・運動を安全に行うためのポイント.
    運動前後の体調確認と安全への配慮。

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