運動中に音楽を聴く効果とは?論文と実体験で解説するメリット・デメリット

執筆:あべきん⁠|ボディメイクインストラクター・メンタル心理カウンセラー資格保有

「音楽を聴くと運動が楽になる気がする。これは気のせい?」「ランニングに合う曲は、やっぱりアップテンポ?」

筋トレやランニングを続けていると、音楽が背中を押してくれる場面があります。私自身、好きな曲があるだけで気持ちが切り替わり、単調に感じていた運動を楽しめることがあります。

研究でも、音楽は運動中の気分や主観的なきつさ、パフォーマンスに好ましい影響を与える場合があると報告されています。ただし、誰にでも同じ効果が出るわけではありません。参考文献1

この記事では、運動と音楽の関係を論文から整理し、私の経験談を交えながら、曲の選び方、BPM、デメリット、イヤホンなどの選び方まで解説します。

大切なのは、音楽で限界を忘れることではなく、目的に合った運動を気持ちよく続けることです。

1.運動中に音楽を聴くと、どんな効果がある?

運動中の音楽に期待できる働きは、大きく分けると「気分」「きつさの感じ方」「動きやパフォーマンス」の3つです。

Terryらが139研究をまとめたメタ分析では、音楽の利用は、平均的には気分の改善、主観的運動強度の低下、運動パフォーマンスの向上と関連していました。一方、心拍数については有意な効果が確認されていません。参考文献1

ここで注目したいのは、「楽に感じる」と「身体への負荷が小さくなる」は同じ意味ではないことです。

好きな曲のおかげで前向きに走れたとしても、それだけで体温や疲労の状態まで判断することはできません。また、その日の運動成績が良くなることと、何週間もかけて持久力が向上することも、分けて考える必要があります。

音楽はトレーニングそのものの代わりではなく、運動に取り組む時間を支える補助として捉えると、上手に活用しやすくなります。

2.音楽を聴くと疲れにくい?「疲労感」と「疲労」を分けよう

運動中に感じる「きつい」「もうやめたい」という感覚は、研究では主観的運動強度、RPEなどの指標で評価されます。

Yamashitaらの研究では、最大酸素摂取量の40%に相当する強度で自転車運動を行ったとき、音楽によってRPEが低下しました。一方、60%の強度では同じ効果は認められませんでした。参考文献2

この結果は「音楽を聴けば、どれだけ激しい運動でも楽になる」という説明が適切ではないことを示しています。ただし、この1研究の数値を、そのまますべての人の境界線として使うこともできません。

日常のランニングでは、「今日は楽しく走れているか」と「予定より速く走っていないか」を別々に確認してみてください。気分が良くても、いつもより呼吸が乱れているなら、曲に引っ張られてペースが上がっている可能性があります。

筋トレでも同じです。好きな曲でやる気が出たとしても、設定した回数や重さを勢いだけで変えず、まずは予定した動作を丁寧に行いましょう。

3.【経験談①】音楽は、身体が慣れるまでの「続ける気持ち」を支えてくれた

私が音楽の良さを強く感じるのは、まだ運動に慣れていない時期です。

ランニングでは、最初は苦しく感じていた負荷でも、続けるうちに少しずつ楽に感じられるようになっていきました。しかし、その変化を感じるまでの期間は、やはりきついものです。

私にとって音楽は、その期間を乗り越える気持ちの支えになっています。

例えば、スポーツ映像にアップテンポな曲が流れていると、自分までその舞台に立っているような気分になります。映像の中で頑張っている選手に気持ちが重なり、「よし、自分も頑張ろう」と行動に移しやすくなるのです。

また、音楽を聴きながら走っていると、時間があっという間に過ぎたように感じます。単調になりやすい運動でも、好きな曲があることで、私には楽しい時間になります。

これは私個人の実感であり、全員に同じ変化が起きるという意味ではありません。ただ、「運動がつらいから続かない」と感じている人にとって、曲を選ぶことは試しやすい工夫だと思います。

暑熱順化を直接進めるのではなく、継続を支える存在

暑熱順化は、身体が暑さに慣れていくことです。環境省は、本格的に暑くなる前から、無理のない運動や入浴などで徐々に備えることを案内しています。参考文献9

私は、暑さに慣れていく過程とランニングの持久力がつく過程に、「変化には時間がかかる」という共通点を感じています。ただし、両者の身体の仕組みが同じという意味ではありません。

そして、私の経験から言えるのは、音楽が運動を続ける気持ちを助けてくれたということまでです。「音楽を聴いたから暑熱順化が早まった」と確かめたわけではありません。

暑い日に無理を続けることと、運動を継続することは別です。暑さ指数(WBGT)や体調を確認し、必要なら中止したり、涼しい環境に切り替えたりする判断を優先してください。参考文献10

4.運動に合う音楽とBPMの選び方|速い曲が正解とは限らない

BPMは、音楽の1分間あたりの拍数を表す数字です。曲のテンポを比べる目安になりますが、心拍数や、走るときの1分間の歩数とは別のものです。

音楽の拍と運動の動きを合わせる「同調」を調べた研究もあります。しかし、その考え方を「音楽のBPMを心拍数と同じにすればよい」と置き換えることはできません。参考文献5

まず決めたいのは、曲の速さよりも、その日の運動の目的です。

【経験談②】長く走る日はローテンポ、短時間で頑張る日はアップテンポ

私も、以前からアップテンポな曲を聴くと気持ちが高まると感じていました。ただ、気分が上がりすぎて、走るペースが乱れやすいこともあります。

そこで私は、持久力を高めるために長く走りたいときはローテンポの曲、短時間で負荷をかけたいときはアップテンポの曲というように使い分けています。

私にとっては、「盛り上がる曲」と「今日の練習に合う曲」が、必ずしも同じではないのです。

自転車運動を対象としたWaterhouseらの研究でも、音楽のテンポを変えると、参加者が自分で調整する運動量やペダルの回転数が変化しました。もっとも、小規模な自転車運動の結果なので、すべてのランナーにそのまま当てはまるとは限りません。参考文献4

私のローテンポの使い方も、万人向けの処方ではなく、ペースを保つために見つけた個人的な工夫です。

邦楽・洋楽のおすすめは「好きか」「動きを邪魔しないか」で選ぶ

運動用の音楽を探すと、邦楽、洋楽、EDM、ロックなど、さまざまな候補が出てきます。しかし、ジャンル名だけで効果の優劣を決めるより、自分の好みを確認する方が実用的です。音楽の好みが運動への反応を左右しうることは、研究レビューでも論じられています。参考文献3

例えば、歌詞に励まされるなら好きな邦楽、言葉に注意を奪われるなら歌詞のない曲を試す、といった選び方です。洋楽でも歌詞が気になる人はいるので、「洋楽なら集中できる」と決めつける必要はありません。

なお、運動前に110 BPMと140 BPMの音楽を比較した研究では、どちらの条件でも音楽なしより気分などの改善が見られました。「気持ちを整えるには、速い曲しか使えない」というわけではありません。参考文献6

5.運動中に音楽を聴くデメリットと注意点

周囲の音や身体の変化への注意がおろそかになる

音楽に集中するほど、周囲の状況にも意識を向ける工夫が必要です。屋外では、車や自転車、歩行者の接近を確認することを優先してください。交通量の多い場所や交差点などでは、再生を止め、必要に応じてイヤホンを外しましょう。

耳をふさがないタイプでも、安全が保証されるわけではありません。音が聞こえることと、その音に注意を向けていることは別だからです。

暑い環境でめまい、頭痛、吐き気などが出たときは、「好きな曲が終わるまでは」と続けず、運動を中止して涼しい場所で身体を冷やしてください。意識がおかしい、自力で水分を飲めないといった場合は119番です。参考文献9

大音量や長時間の再生で耳に負担をかける

WHOは、大きな音への曝露による聴覚へのリスクは、音量だけでなく、聴く時間や頻度にも関係すると説明しています。周囲がうるさいからといって音量を上げ続けず、耳を休ませる時間も取りましょう。参考文献8

曲選びが運動の邪魔になる

「次の曲が気になる」「プレイリストを変えたい」と、運動中に画面操作が増えるのも避けたいところです。使う曲は出発前に選び、変更するなら安全な場所で止まって操作する。この小さな準備だけでも、運動中に迷う場面を減らせます。

6.有酸素運動中の音楽はダメ?よくある疑問に回答

音楽で楽に感じたら、運動の効果は落ちる?

少なくとも、楽に感じたという理由だけで「運動が無意味になった」と判断する必要はありません。音楽の研究では、主観的なきつさと、実際の運動パフォーマンスを別々に評価しています。参考文献1

反対に、音楽を聴けば必ず脂肪が多く燃える、短期間で痩せる、とも言えません。今回紹介した研究から、そのような減量効果を保証することはできません。

音楽なしの方が集中できる日は、聴かなくてもいい?

もちろんです。呼吸やフォームに意識を向けたいときや、周囲への注意が必要な場所では、音楽なしを選ぶのも合理的です。

「運動前だけ聴く」という使い方もあります。運動前の音楽を対象にしたメタ分析では、一部のパフォーマンス指標や心理的な反応への好ましい効果が報告されています。参考文献7

安全な場所で出発前に好きな曲を聴き、走り始めたらイヤホンを外す。音楽を取り入れるかどうかは、ずっと聴くか、まったく聴かないかの二択ではありません。

7.運動を続けるためのプレイリストとイヤホン・アプリの選び方

最初は「始める・続ける・終える」で曲を分ける

ここからは、研究結果と私の経験を踏まえた実践案です。特定の効果が保証されたメニューではありません。

プレイリストは、最初から大量に作らず、準備中に気持ちを切り替える曲、運動中に予定のペースを保ちやすい曲、終わりに落ち着いて聴ける曲という3つの役割に分けてみてください。

ウォーキング、踏み台昇降、ランニングなど、種目が変われば合う曲も変わります。曲の終わりに合わせて無理に運動を延長する必要はなく、体調と予定した運動内容を優先しましょう。

イヤホンは音質だけでなく、使う場所と装着感で選ぶ

運動用イヤホンを選ぶときは、次の点を購入前に確認すると、用途とのミスマッチを減らせます。

  • 屋外で使うなら、周囲の音を確認しやすい構造や機能。ただし、それだけで安全とは判断しない。
  • 走るときのずれが気になるなら、フィット感や固定方法。
  • 汗をかく運動なら、メーカーが示す耐汗・防水性能と使用上の注意。
  • 長めの運動なら、使用する機能を有効にした状態での再生時間。

高価な機種を選ぶ前に、「今のイヤホンの何が困るのか」を一つ決めるのが出発点です。ずれが問題なら装着感、充電切れが問題なら再生時間というように、解消したい不便から比較してみてください。

音楽アプリ・プレーヤー・スマートウォッチは必要な機能を確認

曲探しや並べ替えに手間を感じるなら、音楽アプリのプレイリスト機能や操作性を確認しましょう。通信が不安定な場所で使いたい場合は、オフライン再生への対応と利用条件が比較ポイントになります。

スマートフォンを持たずに走りたい場合は、小型の音楽プレーヤーや、単体再生に対応したスマートウォッチも候補になります。ただし、「スマートフォンの音楽を操作できること」と「端末だけで音楽を再生できること」は別の機能です。

購入前には、使っている音楽サービスへの対応、必要な契約、イヤホンとの接続条件を公式情報で確認してください。

今ある機器で不便がなければ、買い替える必要はありません。まずは曲の選び方を変えてみて、それでも残る不便を解消するために道具を選ぶと、納得して取り入れやすくなります。

8.まとめ|音楽は「今日の頑張り」と「明日の継続」をつなぐ道具

運動中の音楽には、気分やきつさの感じ方、パフォーマンスを支える可能性があります。ただし、曲の好みや運動の種類によって反応は変わり、速い曲がいつも最適とは限りません。

私の場合、スポーツ映像と音楽で「自分も頑張ろう」と気持ちが動くことがあります。その一方で、長く走りたい日はローテンポを選び、気分の高まりすぎを抑えるようにしています。

この経験から大切だと感じるのは、やる気を高めることだけでなく、その日の目的に合う気持ちをつくることです。

身体が慣れるまでには時間がかかります。音楽がその適応を直接起こすわけではありませんが、私にとっては、変化を感じられるまで運動を続ける支えになりました。

次に運動するときは、「一番テンションが上がる曲」ではなく、「今日の自分が無理なく取り組める曲」を一つ選んでみてください。音楽を使わない方が合う日があっても、それで大丈夫です。

※本記事は一般的な情報提供を目的とし、診断や治療、個別の運動処方を行うものではありません。研究結果と筆者個人の経験は区別して記載しています。

参考文献・公的資料

  1. Terry PC, et al.(2020). Effects of music in exercise and sport: A meta-analytic review.Psychological Bulletin, 146(2), 91–117. DOI: 10.1037/bul0000216.
    音楽と運動に関する研究の全体像。
  2. Yamashita S, et al.(2006). Effects of music during exercise on RPE, heart rate and the autonomic nervous system.Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 46(3), 425–430.
    運動強度と主観的なきつさ。
  3. Ballmann CG.(2021). The Influence of Music Preference on Exercise Responses and Performance: A Review.Journal of Functional Morphology and Kinesiology, 6(2), 33. DOI: 10.3390/jfmk6020033.
    音楽の好みと運動への反応。
  4. Waterhouse J, et al.(2010). Effects of music tempo upon submaximal cycling performance.Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 20(4), 662–669. DOI: 10.1111/j.1600-0838.2009.00948.x.
    テンポと自分で調整する運動量。
  5. Bacon CJ, et al.(2012). Effect of music-movement synchrony on exercise oxygen consumption.Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 52(4), 359–365.
    音楽の拍と動作の同調。
  6. Pusey CG, et al.(2023). Put Some Music on: The Effects of pre-Task Music Tempo on Arousal, Affective State, Perceived Exertion, and Anaerobic Performance.Music & Science, 6. DOI: 10.1177/20592043231174388.
    運動前のテンポと気分・運動成績。
  7. Delleli S, et al.(2023). The effects of pre-task music on exercise performance and associated psycho-physiological responses: a systematic review with multilevel meta-analysis of controlled studies.Frontiers in Psychology, 14, 1293783. DOI: 10.3389/fpsyg.2023.1293783.
    運動前に聴く音楽の効果。
  8. World Health Organization. Deafness and hearing loss: Safe listening.
    音量・聴取時間と聴覚保護。
  9. 環境省. 熱中症警戒アラートやエアコンを適切に利用し、この夏も万全の熱中症対策を!
    暑熱順化・熱中症の予防と対応。
  10. 日本スポーツ協会. 熱中症予防のための運動指針.
    暑熱環境下での運動判断。

この記事では、ボディメイクインストラクターとメンタル心理カウンセラーの資格を持ち、筋トレとランニングを継続している筆者が、運動中に音楽を聴く効果を論文と実体験の両面から解説します。

この記事を書いた人
あべきん

KO-DAI Performance Lab運営者。ボディメイクインストラクター、メンタル心理カウンセラーの資格を取得。筋トレとランニングを継続し、運動と心の健康について、資格学習・論文・実体験を区別して発信しています。

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