「精神障害があると、運動している人は少ないのだろうか」
筋トレやランニング、ウォーキングが心の健康に役立つと聞いても、身体を動かす気力が出ない日もあります。だからこそ、運動している人の割合を比べるときには、その数字の背景まで考えたいところです。
今回は公的調査と研究をもとに、精神障害と運動習慣の関係をやさしく整理します。
1.精神障害のある人と一般成人の運動実施率
2025年度のスポーツ庁の調査では、週1日以上、運動・スポーツをしている人の割合は次のとおりでした。文献1文献2
| 対象 | 週1日以上の実施率 |
|---|---|
| 精神障害のある20歳以上の人 | 35.7% |
| 一般成人の20歳以上の人 | 51.7% |
差は16.0ポイント。およそ100人に置き換えると、精神障害のある人では36人、一般成人では52人です。
ただし、一般成人の調査には障害のある人も含まれます。「健常者だけの実施率」ではありません。また、一般調査の対象は79歳までで、年齢構成なども異なるため、条件をそろえた厳密な比較ではない点に注意が必要です。
ここでいう運動には散歩なども含まれ、ジムでの筋トレや競技スポーツだけを数えた数字ではありません。
2.運動していない人が「約6割」とは言い切れない
35.7%という数字を見て、残りの64.3%はまったく運動しないと思うかもしれません。
しかし、週1日未満でも身体を動かす人はいます。同じ調査で、精神障害のある20歳以上の人のうち、過去1年間「行っていない」と回答した割合は40.0%でした。文献1
つまり、運動をする機会が少ないことと、運動をまったくしないことは別です。週1回という区切りに届かなくても、その人が取り組んだ散歩や体操まで消えてしまうわけではありません。
一方、海外の69研究をまとめた分析でも、統合失調症・双極症・大うつ病のある人は、年齢と性別を合わせた健康な対照群より身体活動が少なく、座って過ごす時間が長い傾向でした。国内調査とは指標が異なりますが、活動の機会を支える必要性がうかがえます。文献3
3.運動する気力が出ない背景も含めて考える
精神障害や精神疾患によって、意欲が落ちたり、疲れやすくなったりすることがあります。「運動が大切」と理解していることと、実際に動けることは同じではありません。
重い精神疾患のある人を対象にした研究の統合では、運動の障壁として気分の落ち込みやストレス、支援の不足が挙げられています。別の聞き取り調査では、薬の副作用や身体の病気も報告されました。文献4文献5
さらに、費用の負担や、人前で運動する恥ずかしさなども関係します。文献6
この背景を踏まえると、実施率の差から考えたいのは、本人が取り組める条件をどう増やすかです。調査の差だけで、原因がすべて精神障害にあるとは断定できません。
4.精神障害があっても、運動を続けている人はいる
35.7%という結果は、調査に回答した精神障害のある成人の3人に1人以上が、週1日以上身体を動かしていたことも示しています。
ただし、症状や治療、生活環境は一人ひとり違います。この割合を、運動できない人に同じことを求める根拠にはできません。
運動の効果については、うつ病の基準に相当する症状がある人を対象とした研究で、ウォーキングやジョギング、筋トレなどによる症状の改善が示されています。ただし、研究の確かさには限界があります。文献7
統合失調症でも、有酸素運動を中心とした研究で、注意力など一部の認知機能の改善が報告されています。文献8
実施率の調査だけでは効果は分かりませんが、こうした研究は、体調に合わせて運動を取り入れる意義を示しています。
5.運動不足が気になるときは、小さく始める
WHOや厚生労働省は、身体活動は少しでも行うことに意味があり、個人の状態に応じて量や強度を調整する考え方を示しています。文献9文献10
例えば、取り組み方には次のような選択肢があります。
- 体調のよい日に、家の近くを5分ほど歩く
- 外出が難しい日は、室内で軽く身体を動かす
- 一人では始めにくいときは、家族や支援者と一緒に歩く
これらは始め方の例で、5分で症状が改善するという意味ではありません。つらい日は休養を優先し、治療中の方は主治医と相談しながら、自分に合う方法を探していきましょう。
数字から見えてくるのは、運動の機会に差がある現状と、その差を小さくする支援の余地です。今の自分にできる一歩を、安心して試せる環境を増やしていきたいと思います。
参考文献
文献1 スポーツ庁(2025年度)障害児・者のスポーツライフ調査、図表2-27。
文献2 スポーツ庁(2025年度)スポーツの実施状況等に関する世論調査。
文献3 Vancampfortら(2017)精神疾患のある人の身体活動・座位時間。
文献4 Firthら(2016)運動への動機と参加を妨げる要因。
文献5 Gloverら(2013)重い精神疾患のある人の運動の障壁。
文献6 Chapmanら(2016)運動の好み・動機・障壁に関する調査。
文献7 Noetelら(2024)うつ病に対する運動の効果。
文献8 Firthら(2017)統合失調症の認知機能と有酸素運動。
文献9 WHO(2020)身体活動・座位行動ガイドライン。
文献10 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」。


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