オーバートレーニング症候群とうつの関係|アスリートが心の不調を感じる理由と対策

執筆:あべきん|ボディメイクインストラクター・メンタル心理カウンセラー資格保有

「運動はメンタルによいはずなのに、なぜアスリートがうつ病になるのだろう」

「練習を頑張っているのに、最近は疲れが抜けず、気持ちまで沈んでしまう」

筋トレやランニング、部活動などに取り組む中で、このような疑問を持つ人もいると思います。

結論から言うと、アスリートも、うつ病や不安症などの精神疾患を経験することがあります。ただし、追い込んだトレーニングだけで発症が決まるわけではありません。練習と回復のバランス、競技のプレッシャー、生活上のストレスなどを含めて考える必要があります。参考文献1

この記事では、オーバートレーニング症候群とうつの関係を整理し、心身の変化に気づくポイントと、練習・休養・相談の考え方を紹介します。運動のよさを大切にしながら、長く続けられる方法を一緒に考えていきましょう。

アスリートもうつ病になる?運動の効果との関係

運動によって気分がすっきりしたり、達成感を得られたりすることはあります。研究でも、運動が抑うつ症状の改善に役立つ可能性が示されています。

2024年に発表された研究では、うつ病の診断または一定以上の抑うつ症状がある人を対象とした218件の研究、計14,170人のデータが検討されました。ウォーキングやジョギング、筋力トレーニングなどに症状を軽減する効果が認められています。ただし、多くの比較で証拠の確実性には限界があり、誰にでも同じ結果が得られるわけではありません。参考文献2

この結果を、「運動している人は精神疾患にならない」と読み替えることはできません。研究で組まれた運動プログラムの効果を、そのまま休養不足の競技生活に当てはめることもできないからです。

競技成績がよいことと、本人が心身ともに調子よく過ごせていることも、必ずしも一致しません。周囲には元気に見えていても、本人は眠れなさや強い不安を抱えている場合があります。外から見える頑張りだけで、その人の状態を判断しないことが大切です。参考文献1

オーバートレーニング症候群とは?一時的な疲れとの違い

強い練習の後に疲れたり、一時的に記録が落ちたりすること自体は珍しくありません。適切に回復できれば、その後の能力向上につながる場合もあります。

一方、負荷に回復が追いつかない状態が続くと、長引く疲労や競技能力の低下、気分の変化などが現れることがあります。オーバートレーニング症候群は、そのような長期にわたる不調を考える際の重要な概念です。練習量の数字だけで決められるものではなく、経過やほかの病気の可能性も確認して判断します。参考文献3

そのため、「昨日の筋トレでひどく疲れた」「今日はやる気が出ない」という一日の状態だけで、オーバートレーニング症候群とは言えません。反対に、長引く不調を「いつもの疲れ」と片づけてしまうことにも注意が必要です。

また、オーバートレーニング症候群とうつ病は、疲労や気分の落ち込みなどが重なって見えることがありますが、同じ診断ではありません。燃え尽きも含め、それぞれを適切に見分けることが支援につながります。参考文献1

追い込むトレーニングとメンタルの関係を研究から考える

練習の負荷と気分の変化については、以前から研究されています。

例えば、男性競泳選手12人の練習量を増やした1988年の研究では、強化期間中に疲労感や怒り、抑うつ気分などの指標が高まりました。これは小規模で古い研究ですが、身体への負荷が増えたときに、気分の面にも変化が現れうることを示しています。参考文献4

ただし、ここで測定している「抑うつ気分」は、医師が診断する「うつ病」と同じ意味ではありません。この研究だけで「強い練習がうつ病を引き起こす」と結論づけることはできません。

記事やSNSで研究結果を読むときも、「気分の変化を調べたのか」「病気の診断を調べたのか」を確認すると、誤解を減らせます。運動のよさも負担も、調べられた範囲に沿って受け止めたいところです。

心の不調を考えるときに確認したい4つの要素

1.練習量に対して回復する時間が足りているか

負荷は、走行距離や筋トレのセット数だけで決まりません。試合の連続、移動、生活上のストレスなども含めて、選手が受ける負担を捉える必要があります。IOCの声明でも、トレーニングや試合、心理的負担を含めた管理の重要性が示されています。参考文献5

例えば、普段と同じ練習でも、仕事の繁忙期や試験前にはきつく感じるかもしれません。「先週できたから、今週も必ずできる」と考えず、生活全体を見ながら計画を調整する視点が役立ちます。

2.睡眠を削って練習していないか

早朝練習や夜遅い試合、遠征などによって、選手の睡眠時間が短くなることがあります。2021年の専門家の提言でも、練習や試合の時間帯を決める際に、睡眠への影響を考慮する必要性が指摘されています。参考文献6

寝る時刻が遅くなっているのに、朝の自主練習だけを増やしていないでしょうか。練習のために睡眠時間を削ることが続く場合は、一日の予定を組み直す余地があります。必要な睡眠には個人差があるため、「何時間寝たか」に加え、日中の眠気や回復した感覚にも目を向けたいところです。

3.運動量に見合った食事を取れているか

運動による消費に対して食事から得るエネルギーが足りない状態は、男女どちらの選手でも問題になります。長く続くなどして健康や競技能力に悪影響が生じる状態は、「スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)」として整理されています。気分の変化や疲労とも関連が報告されています。参考文献7

体重を気にして食事を減らしながら、練習だけを増やしている場合は、その組み合わせを確認したいところです。タンパク質の量だけでなく、食事全体が足りているかという視点も必要です。食事を整えることだけで、精神疾患の治療が完結するわけではありません。

4.結果への不安や相談しにくさがないか

「休むと試合に出られなくなるかもしれない」「弱いと思われたくない」と感じ、心の不調を相談しにくい選手もいます。アスリートの受診を妨げる要因を調べた研究でも、精神疾患への偏見や、競技特有の事情が課題として挙げられています。参考文献8

このような場面では、本人に休養の重要性を伝えるだけでは足りないことがあります。相談内容がどこまで共有されるのか、誰に話せるのか、練習をどう調整できるのか。周囲が具体的な選択肢を示すことも、支えになると考えられます。

オーバートレーニング症候群のチェックで気をつけたいこと

気になる症状があっても、インターネットのチェック項目だけで病名は決められません。実際に、日本ではオーバートレーニング症候群と判断されたことで、うつ病性障害の治療開始が遅れた症例が報告されています。参考文献9

この報告は一人の症例であり、すべての選手に当てはまるわけではありません。それでも、長引く不調を一つの説明だけで捉えないことの大切さが分かります。

日常では、次の変化を振り返ってみてください。これは診断用の尺度ではなく、相談時に状態を伝えるための整理です。

● 以前より疲れが残り、普段の練習が重く感じる。

● 記録や動きの低下が続き、十分に戻ってこない。

● 寝つきや夜中の目覚め、朝の起きやすさが変わった。

● 食欲や食事量に変化がある。

● 練習以外の楽しみや人付き合いにも興味を持ちにくい。

● 落ち込みや不安、イライラが続き、生活に影響している。

疲労や気分、ストレスなどの本人による報告は、トレーニングへの反応を把握する手がかりになります。一回の点数で判断せず、本人の普段の状態と比べていくことが重要です。参考文献10

メモを残すなら、「昨日はよく眠れなかった」「仕事が忙しかった」「走り始めから身体が重かった」程度でも構いません。きれいに記録することを新たな課題にする必要はありません。

オーバートレーニングの回復方法を考えるときの基本

不調を感じたら、追加の追い込みをいったん見直す

調子が落ちると、練習不足を疑って自主練習を増やしたくなるかもしれません。しかし、回復が足りない場合は、さらに負荷を増やすことが適切とは限りません。原因を確認しながら、練習量・強度・休養を見直す必要があります。参考文献3

長引く疲労や明らかな不調があるときは、医師やチームの医療スタッフに相談してください。完全な休養が必要か、軽い活動を続けられるかは、症状や原因によって異なります。

「三日休めば必ず回復する」「このサプリメントを飲めば治る」といった一律の方法に当てはめず、経過に合わせて対応することが大切です。

休養を予定表に書き込む

日常の工夫として、練習内容を決めるときに、食事や睡眠の時間も一緒に書き出してみましょう。以下は、計画を見直すときの一例です。

● 帰宅が遅い日は、自主練習を追加する前に就寝までの時間を確認する。

● 仕事や学校の負担が大きい週は、コーチに早めに伝える。

● 食事を取れないまま長時間の練習に向かう予定になっていないか確認する。

● 不調がある日は、計画どおりにできたかよりも、状態を共有できたかを振り返る。

これらは治療メニューではなく、生活の負担を整理するための例です。競技の予定と回復の予定を並べることで、無理が生じている場所を見つけやすくなります。

食事と睡眠の困りごとを具体的に伝える

「ちゃんと食べて、よく寝ましょう」と言われても、食欲がない、遠征先で眠れない、練習時間が長いなど、本人だけでは変えにくい事情もあります。

相談するときは、「夕食を取る時間がない」「寝床に入っても試合のことを考え続ける」など、実際に困っている場面を伝えてみてください。チームの予定調整、医療機関での評価、管理栄養士への相談など、必要な支援を考える材料になります。参考文献6・参考文献7

うつ病が心配なとき、どの段階で相談すればよい?

気分の落ち込みや、以前楽しめていたことを楽しめない状態が続く場合は、医療機関に相談してください。うつ病の診断では症状が少なくとも二週間続くことなどを確認しますが、つらさが強い場合や生活に支障がある場合に、二週間待つ必要はありません。参考文献11

相談先は、かかりつけ医、精神科・心療内科、チームドクターなどです。疲労や食欲の変化には身体の病気が関係することもあるため、気持ちの問題と決めつけず、身体の症状も一緒に伝えましょう。

受診時には、次の内容をメモしておくと説明しやすくなります。

● いつから、どのような不調が続いているか。

● 練習量や試合日程に変化があったか。

● 睡眠、食欲、学校や仕事への影響はどうか。

● 練習を減らしたとき、状態がどう変わったか。

治療が必要な場合は、心理療法や薬物療法などを、その人の状態に合わせて検討します。運動をしているからといって、自己判断で治療を中断することは避けてください。参考文献11

自分を傷つけそうな切迫した状態や、安全を保てない状態では、一人で抱えず身近な人に伝え、救急など緊急の支援につながってください。

家族や指導者ができるサポート

本人が「最近つらい」と話したときは、最初に原因を決めつけず、何が変わったのかを聞いてみてください。

「気合を入れ直そう」と励ます前に、「眠れている?」「食事は取れている?」「練習以外の時間はどう?」と、具体的な生活の様子を尋ねる方法があります。

国立精神・神経医療研究センターでは、アスリートやコーチ、家族が不調に気づくための「日本語版SMHRT-1」を公開しています。これは病気を診断する道具ではなく、変化を捉え、必要な支援につなげるためのものです。参考文献12

例えば、本人が受診を考えているなら、予約の方法を一緒に確認する。コーチに話しづらければ、相談相手を探す。結果を急いで求めず、次の一歩を具体的に支えることができます。本人の希望を確かめながら、相談内容の扱いにも配慮したいところです。

よくある疑問

筋トレやランニングをすると、うつ病になるのでしょうか?

運動をしたことだけで、うつ病になるとは言えません。運動には抑うつ症状を軽減する可能性がありますが、回復不足や生活上の負担も含め、本人の状態に合った取り組み方を考える必要があります。参考文献2・参考文献5

何時間以上練習すると危険ですか?

全員に共通する時間だけでは判断できません。練習経験や強度、回復の状況が異なるためです。練習時間に加え、疲労や気分、睡眠、成績の変化を確認しましょう。参考文献3・参考文献10

休んでも気分が戻らないときはどうすればよいですか?

「もっと長く休めばよい」と自分だけで判断し続けず、医療機関に相談してください。オーバートレーニングが疑われても、うつ病など別の治療が必要な状態が重なっていないか、確認することが重要です。参考文献9

まとめ|追い込む力と、回復を大切にする視点を持とう

アスリートも心の不調や精神疾患を経験します。オーバートレーニング症候群では、身体の疲労に加えて気分の変化が現れることがあり、うつ病との見分けが必要になる場合もあります。

頑張っているのに調子が戻らないときは、練習量だけでなく、睡眠、食事、仕事や学校の負担、相談できる環境も振り返ってみてください。

運動のよさを伝える発信だからこそ、負担が大きくなったときのことも丁寧に扱いたいと思っています。走れた距離や持ち上げた重量に加えて、よく眠れたか、食事を取れたか、つらさを誰かに話せたかも、続け方を考える材料になります。

今日の自分に合う練習と回復を選び、必要なときには支援を受ける。その積み重ねを、長くスポーツを楽しむための土台にしていきましょう。

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参考文献

1. 参考文献1:Reardon, C. L., et al.(2026). Mental health in elite athletes: International Olympic Committee consensus statement (2026). British Journal of Sports Medicine. DOI: 10.1136/bjsports-2025-111514.

2. 参考文献2:Noetel, M., et al.(2024). Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ, 384, e075847. DOI: 10.1136/bmj-2023-075847.

3. 参考文献3:Meeusen, R., et al.(2013). Prevention, diagnosis, and treatment of the overtraining syndrome: joint consensus statement of the European College of Sport Science and the American College of Sports Medicine. Medicine & Science in Sports & Exercise, 45(1), 186–205. DOI: 10.1249/MSS.0b013e318279a10a.

4. 参考文献4:Morgan, W. P., et al.(1988). Mood disturbance following increased training in swimmers. Medicine & Science in Sports & Exercise, 20(4), 408–414. DOI: 10.1249/00005768-198808000-00014.

5. 参考文献5:Schwellnus, M., et al.(2016). How much is too much? (Part 2) International Olympic Committee consensus statement on load in sport and risk of illness. British Journal of Sports Medicine, 50(17), 1043–1052. DOI: 10.1136/bjsports-2016-096572.

6. 参考文献6:Walsh, N. P., et al.(2021). Sleep and the athlete: narrative review and 2021 expert consensus recommendations. British Journal of Sports Medicine, 55(7), 356–368. DOI: 10.1136/bjsports-2020-102025.

7. 参考文献7:Mountjoy, M., et al.(2023). 2023 International Olympic Committee’s (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs). British Journal of Sports Medicine, 57(17), 1073–1097. DOI: 10.1136/bjsports-2023-106994.

8. 参考文献8:Castaldelli-Maia, J. M., et al.(2019). Mental health symptoms and disorders in elite athletes: a systematic review on cultural influencers and barriers to athletes seeking treatment. British Journal of Sports Medicine, 53(11), 707–721. DOI: 10.1136/bjsports-2019-100710.

9. 参考文献9:山本宏明ほか(2008).オーバートレーニング症候群と判断されて精神科受診が遅れたうつ病性障害の一例.スポーツ精神医学, 5, 79–82. DOI: 10.50843/jasp.5.0_79.

10. 参考文献10:Saw, A. E., Main, L. C., & Gastin, P. B.(2016). Monitoring the athlete training response: subjective self-reported measures trump commonly used objective measures: a systematic review. British Journal of Sports Medicine, 50(5), 281–291. DOI: 10.1136/bjsports-2015-094758.

11. 参考文献11:National Institute of Mental Health.Depression.一般向け解説資料(2026年9月27日閲覧).

12. 参考文献12:小塩靖崇,小黒早紀,Gouttebarge, V.(2022).日本語版SMHRT-1(Sport Mental Health Recognition Tool 1).国立精神・神経医療研究センター.

内部リンク案(編集用)

● 運動のメンタルヘルス効果を説明する段落から:運動でメンタルは強くなる?精神の安定につながる理由と始め方

● 食事について説明する段落から:タンパク質を安く健康的に摂るには?コスパのよい食材・おやつ・飲み物の選び方

※本文は一般的な情報提供を目的とした原稿です。個別の診断や練習再開の判断を行うものではありません。

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